OGI一夜
"コイノマホウ"





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「……そ……あ、あり……っ」

 顔がにやけてしまって、結局ちゃんとしゃべれませんでした。斑目さんはそれを汲み取ってくれ、さらに顔を近づけて続けます。

「いや、こちらこそ、ありがと」

 わたしのおでこにキスしてくれます。そのほんのりとした暖かさに、ようやく気持ちを落ち着けることができました。ふう。

「……妖精さん候補を卒業できて?」
「言うなー!」
「耳元で大声出さないでくださいよ、もう」
「ワリ」

 横に寝転がりなおして、笑顔を見せます。

「……はは、でも、こんな流れになるとは思ってなかったぜ。人生ってのは解らんもんだ」
「わたしもですよ。夕方斑目さんに会ったとき、こんなに素敵な人になってるなんて想像もしてませんでした」

 今では、わたしにもその理由が解ります。斑目さんの恋が、学生時代の内向きなものから外向きに……恋する人に近づこうとする行動に変化したからです。

「斑目さん、咲さんに告白できてよかったですね」
「ん。まあ、かえってイバラの道が長く続くことになったんですがね」
「じゃあわたし、ときどき斑目さんの性欲のハケ口になってあげましょうか?」
「!?」
「冗談ですよ。朝になったら魔法が解けちゃいますから、今のやり取りだって忘れちゃいます」
「あーハイハイ。そこんところは自分でなんとかしますよ」
「ところで、斑目さん」
「ん?」
「まさか、もう眠いなんて言いませんよね?」
「……え?まだ続きあんの?」
「言ったじゃないですか、これから怒涛の快進撃だって」
「よっしゃ。じゃ俺も大野さんのこと迎撃する」

 ばさっ。勢いをつけて、一気に布団をはぎとります。また明るい部屋で裸を見られることになりましたが、いいです、もう。両手で体の前を隠しながら、のしかかってくる斑目さんを見つめていると、彼が聞いてきました。

「で、大野さん。これは魔法の続きなの?それともシミューレーションのほうの続き?」
「斑目さんは、どっちがいいですか?」
「んー」

 にやにやしながらわたしを見つめます。解ってる顔、ですね、これ。

「大野さんは、どっちがいいの?」
「……もう。いじわるですね」
「だって、迎撃開始だからな――うわ」

 わたしは真上で四つん這いになっている彼に飛びつきました。勢いと重みでベッドに着地します。

「ふふ、なら試合もスタートですね」
「せめて『Get set』とかお互いに『Ready』『Go!』って言って始めようぜ〜」
「ヤですよ、そんなオタくさいの」
「ふ、腐女子にオタくさいって言われた!?」
「女子はそういうところでネタを求めないんです。腐女子も普通の女の子も」

 斑目さんの首にしがみつき、キスします。

「斑目さん、大好きです」
「俺もだよ、大野さん」

 斑目さんの『迎撃』が本格的に始まるのを体全体で感じながら、わたしは目を閉じました。
 次の朝までの、めくるめく二人の逢瀬に思いを馳せながら。


おわり


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