OGI一夜
"コイノマホウ"





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 普通の女の子なら怒るところですが、わたしは彼の応用力に舌を巻いていました。さっき一度射精しているのが余裕につながっているのかも知れません。彼は彼なりに、自分のノウハウを消化してわたしに与えてくれているのです。
 小刻みに腰を動かすかと思えば、ゆっくりとグラインドさせて。わたしの入り口を梃子の支点にして、奥のほうまで荒っぽくかきまわします。
 わたしの体を抱きしめて、全体が密着した状態で上下に動いて。彼のヘアがわたしの敏感なところをこすり上げます。
 手や口も休んでいません。またわたしの胸を吸い、舌で転がしながら、両手は髪をなで、背中をなぞって。
 体をひっくり返すような大技を繰り出す余裕はないらしく、ただひたすら正面を向きあって。でもそれが、自分の快感をこらえながらわたしを見つめている斑目さんの顔が、たまらなく嬉しいです。
 真剣な表情でわたしの目の中を覗き込んだり、ときどき自分を襲うクライマックスの波を抑え込むのに神経を集中したり、彼の動きにいやらしい声を上げるわたしをやさしく見守ったり。
 彼を抱きしめながらこうしていると、とても幸せな気分になれるのです。
「う……ま、斑目……さ……わっ……わた、しっ」
「おっ……大野、さん……ッ、大野さんっ」

 お腹の奥底から、ひときわ大きな快感の塊が昇ってくるのが判りました。ぐりぐりとこすりつけてくる斑目さんの腰に両足を巻きつけて、塊が破裂するのに備えます。
 腰にもうんと力を入れて、斑目さんを締めつけます。彼の動きが途切れ途切れになり、呼吸が浅くなって、彼にももう頂上が見えているのが判りました。
 ほとんど御しきれない感情に思考を振り回されながら、振り絞るように呼びかけます。

「斑目さ……ぁん、わたしっ……いっ、しょ、に」

 斑目さんは声を出すこともできないようで、焦点の霞んだような瞳で辛うじてわたしに合図をくれました。
 わたしたちは互いを力いっぱい抱きしめ合い、むさぼるように強く強くキスをして……
「……ん、ふっ」
「ぐ、ぅ、っ」

 最後の瞬間は、まるで二人がひとつの生命に融けあってしまったかのように感じられました。
 わたしたちは、確かに互いを愛していました。
 そう、今晩このとき。
 このひと時だけは、わたしたちは間違いなく最高の恋人同士になれたのです。
****

 ふと気がつくと、わたしはベッドの中で、斑目さんの腕枕で眠っていました。二人とも裸のままでしたが、布団をかぶっていて、彼がすぐそばでわたしを見つめているのが目に入りました。

「あれ?わたし、眠っちゃってましたか?」
「ん、いや、ちょっとだけね」

 時計を見ると、ちょうど日付が変わる頃。逆算すると、30分くらいでしょうか。慌てて身を起こします。

「斑目さん、ずっとこうしてくれてたんですか?」
「そうだけど?」
「ええっ、ごめんなさい、腕、痺れちゃったでしょう?」
「いやいや、大丈夫!ほらこのベッド、ふかふかだったから」
「すいません」
「いいってば。……それに、大野さんの寝顔見てたら、そんなの気にならんかったし」
「……やっ、やだ!」

 急に恥ずかしくなって、再び布団に潜ります。

「……大野さん」

 斑目さんが布団の中へ、わたしを追ってきます。

「大野さん、さっき寝ちゃったから言えんかったけど」

 部屋は明るいですが、布団をかぶった薄暗がりで、斑目さんはわたしに顔を寄せてきます。この暗がりでもわたしの顔がほてっているのが判ってしまいそうで、頑張って冷静な声で答えてみます。

「え、なんですか」
「あのとき……すごく可愛かった」


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