OGI一夜
"コイノマホウ"





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「はは、大野さん、そりゃないよ」
「……あは、ごめんなさい」
「俺だって男だぜ?大野さん、そんなにかわいくされたら」

 わたしの上に乗ったまま、体をすり上げます。お腹にこすれる、――熱い、こわばり。

「我慢、できるわけ、ないじゃん」
「……ん」

 斑目さんが体を起こしました。わたしに馬のりになって、バスローブの合わせに手を添えます。

「……いい、かな?」

 彼の緊張が体温とともに伝わってくるようで、わたしは声が出せません。ただ黙って、彼の目を見つめて、こくりとうなずくのが精一杯でした。
 斑目さんののどが鳴るのが聞こえ、そして両手の指に力が入ります。
 ――あ、電気。灯りを消してもらうのを忘れました。もう間に合いません。
 そうっと……まるで玉子の薄皮でも剥いているかのように、彼の手がわたしのバスローブをめくり、
 わたしは恥ずかしさと緊張で、身動きひとつできないまま、
 やけに明るく感じるホテルの間接照明の輝く中で、
 わたしの胸があらわになりました。

「――っ」

 斑目さんが息を呑みます。わたしは顔から火が出そうになりながら、それでも彼の表情から視線を外すことができません。自分の好みとは正反対のわたしの体を見て、彼は何を思うのでしょう。感激?落胆?たんなる興味?

「大野さん……こりゃあ……」
「そ、そんなに見たら……恥ずかしい、ですよ」

 とうとう我慢できなくなり、斑目さんに言いました。彼もそれで麻痺が解けたようです。

「あ……ごめん、つっついうっかり見ちまった……その……あんまり、きれいなもんだから」
「!?」
「あ、俺が言うの、やっぱおかしい?そりゃそーか、大野さんたちがいる前でだってつるぺたつるぺた言ってたしな。……でも」

 わたしの沈黙をネガティヴにとった斑目さんがまくしたてます。そんなつもりじゃ、なかったのに。

「でも。そんな俺が見ても、きれいだと思うよ、大野さん」
「……ありがとうございます」

 ようやく彼から視線を外すことができました。少し身じろぎをすると、わたしの胸はその動きをオーバーになぞり、ふるふると揺れるのが判ります。斑目さんもそれを目で追いました。

「お、大野さん」
「はい?」
「胸……さわって、いい?」
「……はい」

 おずおずと伸ばしてくる手。その指が触れると、そこから言い知れない快感が広がります。たんに皮膚と皮膚が触れているだけのはずなのに、指先から伝わる体温がわたしの心臓にまで到達し、ただでさえ早まっている鼓動がますますペースを上げます。
 圧力をかけないように、羽のように軽く表面をなでて。
 今度は少し力を入れて、その弾力を確かめるみたいに。
 もっと大胆に、親指と人差し指で乳首をつままれた時、体に電気が走ったようになりました。

「っあ!」
「わ?おっ、大野さん?」

 驚いて手を離そうとする斑目さんの両手首を、とっさに彼に抱きついて押しとどめてしまいました。体勢が崩れてわたしに覆いかぶさるように倒れた彼は、顔をわたしの胸の谷間に埋めます。

「ん、む」
「……やめないで、ください……」
「……うん」

 わたしが自ら引き寄せてしまった彼の顔。その顔をわずかに横に向けて、彼はわたしの乳首にキスしました。

「んっ」

 今度はこらえようとしていたのに、また声が出てしまいました。それを横目でみながら、斑目さんはさらにキスを繰り返します。
 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。強く吸い上げるかと思うと、舌先でくすぐるように転がしたり。口を大きく開けてほおばり、全体を味わったり。
 両手も動きを止めることなく、右手は口と舌を手助けするように、左手は別の意思でわたしの右の胸をマッサージしてきます。彼の舌が、指先が敏感な部分を通るたびに、わたしははしたない声を上げて彼にしがみつく力を強めました。
 やわらかな組織の塊である乳房の、その先端だけが痛いくらいに固く敏感に突き立っています。彼の指先の起伏さえ、舌の粒々や唇の皺さえ、そのすべてが快感の源となってそこから体中に広がってゆきます。

「大野さん……気持ち、いいの?」
「……はいぃ……きもち、いいですぅ……っ」
「胸、いじられるの……好きなんだ?」
「は……ぁっ!ん、す、好き、ですうっ」
 まだわたしはバスローブを着ています。前をはだけられただけで、肩さえ出していません。
 その状態で、斑目さんはわたしのローブに包まれるみたいになって、まるで赤ちゃんのように一心にわたしの胸を吸い続けているのです。わたしは今、斑目さんを包み込みながら、斑目さんに包み込まれているのです。

「あ……あ、っ」

 わたしはたまらなくなり、より強く斑目さんを抱きしめました。
 乳首を起点として広がる快感の波はわたしの体全体を覆い、熱さと切なさで視界がうるんでいます。

「ま……斑目、さん」
「……ん」

 彼も今の愛撫に夢中になっているようです。鼻を鳴らすように返事をする耳元に、体をまげて唇を近づけます。

「もっと……もっとなでなでしてください……おっぱいだけじゃなくて……もっと、ぜんぶ」

 言いながら、自分でバスローブの帯を解いてしまいました。もじもじ動かしつづけていた脚が、あっという間に服をただの布切れに変えてしまいます。袖こそ通したままですが、わたしは丸はだかで斑目さんを抱きしめているのです。
 斑目さんはわたしのお願いを聞いてくれ、そろそろと両手を移動させ始めました。唇はわたしの胸に吸いついたままで、肩を、背中を、お腹を、お尻を、そしてもっと下のほうまで、ふたつの手のひらがわたしの輪郭をなぞります。
「大野さん……すべすべだね。やわらかいし……貼りつくみたいだ」
「んっ……ま……だらめ、さん、の、手……やさしくて、好きですよ」

 忙しい斑目さんの代わりに、わたしは彼のバスローブを脱がせました。帯を抜いて、背中をめくり、下着を――勇気が足りなかったのかトランクスを履いていました――脱がせると、バネ仕掛けのように勢いよくそそり立ちます。

「斑目さん……こんな、に」


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